
先週も旧作邦画を二つ見てきました。
まずは松林宗恵監督「美貌の都」(昭和32年、宝塚映画)、宝田明と司葉子が主演です。
映画の冒頭、いきなり阪急1200系の正面どアップで登場し、次のシーンは宝塚線の庄内駅改札に集う朝の通勤風景。改札に立つ駅員には小林桂樹。ホームには形式名はわかりませんが、初期型らしいダブルルーフの電車が進入してきます。
いや、もうびっくりしました。映画を見ていて汽車電車が出てくると、それだけで思わず身を乗り出してしまうのですが、予想もつかない登場だとそれが倍加されます。そしてこれは、見終わった後に気がついたのですが、映画の製作が宝塚映画という阪急東宝グループの子会社、つまりこのシーンは阪急電車の宣伝でもあったのですね。特に冒頭の1200系は映画前年の31年登場ですから冒頭の正面どアップはまさにそれそのものでしょう。
映画の筋は、小さな自動車部品下請け工場に勤める工員宝田明と司葉子。貧しいけれど特にそれを不満に思うことなく生きそして付き合っていた二人だが、ひょんなことから金持ちのボンボン、木村功に司が見初められる。最初は紳士的に振る舞われそれに夢中になる司だが、やがて....。
さてストーリーはともかく、この映画もまたプログラムピクチャーならではのスピード感と準主役・脇役の力量でご都合主義の起承転結に結構なリアリティーを与えています。この映画で言えば、浪花千栄子、淡路恵子、清川虹子、或いは環三千世。
僕は明治大正生まれの関西人と残念ながら話をした経験がないのですが、浪花千栄子のセリフを聞いていると往時のネイティブ大阪弁とはこういうかんじだったのか、という独特のリズム感とその間合いにいつも聞き惚れてしまいます。更に水商売が似合いながらも、それに染まり切らない凜とした姿勢が魅力の淡路恵子に生活に疲れた初老の女をやらせたら天下一品の清川虹子の二人。そしてどこか放課後生活の延長上みたいな爽やかさを感じる不良娘役の環三千世が出色。小津映画では置物みたいな役でしたが、ここでは溌剌として可愛らしく、また意地らしい。
しかし何と言ってもこのこの映画は小林桂樹、彼につきます。役柄は宝田明の同郷の先輩で仕事場は阪急の駅員。とにかく親身で誠実で、という彼が生涯を通じて練り上げていった自身のキャラクターそのまんまですが、この兄貴分という設定でそれが最もよく発揮されているように思います。
この映画もそうですが、あまりの美男子でそれが故にか逆にどこかいつも不安定な役柄が多い宝田明に対し、絶対の安心感をもつ兄貴分として小林桂樹が配されたのは映画への感情移入という点で大成功だったと思います。
あ、でもこれももしかしたら阪急電車の宣伝かもしれませんね。こんないい駅員が勤めている阪急電鉄は良い会社っていうことの。
ちなみに電車は阪急ばかりではありません。映画のラスト近く、司葉子が京都の料理茶屋で運命と対峙するシーンがあるのですが、縁側の向こうには鴨川沿いを走る京阪電車が登場します。ぼんやりしているんで形式名はわかりませんが、モノクロの色味から特急車輌の1700系ではなさそうです。
それから、金持ち木村功邸でのパーティーシーンで、場の雰囲気に馴染めない宝田明が彼の弟に誘われ、子供部屋で三線式のED58(?)がライトを光らせて走らせる場面があります。この時代の鉄道模型と映画では小津安二郎の「麦秋」が有名ですが、こちらはプロレタリアな工員の宝田明に金持ち小学生のオモチャの修理をさせるというよりブルジョア感を高める演出に使われていました。
ともあれ、色々と書いてきましたが、鉄道ファン的には昭和30年代の動いている阪急電車を堪能できる作品でありました。