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昭和62年 越美北線(その1)

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我が青春の旅路において、もっとも長く過ごしたところといえば、ここ福井駅である。

前にも書いたが当時の周遊券で関東からもっとも割安に旅行できるところが北陸地方、それは周遊券の額面が安いということもあったが、夜行急行や大垣行きを使って目的地まで行けたこと、さらにこれが実は決定的だったのだが深夜停車の列車がかなりあったため福井や金沢という北陸本線の大駅は終夜営業していたので待合室が夜通し開放されておりそこで夜を明かすことができた、つまり宿泊費がかからなかったからなのである。

中でも福井駅は街のサイズが北陸3県の県都の中で一番小さかったからか、深夜に待合室を利用する乗客も少なくて寝る場所を確保しやすかったし、また安くて美味しかったうどん屋さんが駅前にあったこともあって、僕にとって北陸路のいわば定宿のようなところであった。

とはいえ、殺風景な待合室。今から思えば、パソコンもスマホもない中でどうやって時間を潰したのか。思い出してみると待合室にもテレビはあったし文庫本は今よりも割安だったので1000円で数冊買えたからそんなものを見たり読んだりして時間を過ごしていた。

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そんな福井駅の滞在、いくつか思い出がある。

その頃、ハレー彗星の地球接近が話題になっていて、たしかその観測衛星を当時のEC(ヨーロッパ共同体)が企画して飛ばしていた。その実況中継をこの福井駅で聞いていたのを覚えている。実はこの時は大学で落第が決まった直後だった。もう逃げるようにして旅立ち、誰にも会いたくない気持ちで駅の待合室で過ごしていたのだが、あの時のなんとも言えない心細さ、敗北感と奇妙な解放感が入り混じった不安定な心理状態とハレー彗星観測のテレビ中継を追いかけていた記憶は今思い出しても、ちょっと苦味を感じるものがある。

また一度、女衒(?)から逃げ出した女性を捕まえるために追っかけてきた男たちと彼女を助けようとした人との間で大立ち回りを目にしたこともある。「どこかに隠れたぞ!」「あ、いた。追いかけろ」なんて怒号は飛び交っていたが、どうにも殺気というものが感じられずドタバタしているだけ、またそこに「おい、お前ら、若い子を捕まえてどうすんだ!」とどうみても関係ないおじさんが正義感から加勢したりもしたが、なんというか騒動の割には追う方にも逃げる方にも切迫感が感じられず、まるでドリフのコントを見ているような不思議な光景だった。

まあ、そんな珍事もあったが、ほとんどの日はただ静かな夜の時間が流れるだけ。やがてテレビも終わり、本も読み飽きるといつとはなしにうつらうつらと眠っていた。そして夜が明け短い眠りから覚めると、その日の目的地までまた列車に乗って出かける、それが北陸の旅における僕の日常。訪れた年や季節が変わっても繰り返された旅の記憶である。

by michikusajinsei | 2018-04-25 06:54 | 国鉄 急行 | Comments(4)

Commented by シグ鉄 at 2018-04-27 16:35 x
両写真とも金沢側から武生側に向かって撮られたと思われます。一枚目の左側小さいホームは京福電鉄でしょうか。
となれば、貴兄がおられるのが3番線ですから、京福に1,2番線を名乗らせていた! うーん・・・
Commented by michikusajinsei at 2018-04-29 07:44
シグ鉄さま、コメントありがとうございます。

うっ、そう指摘されますとここが福井駅であるという思い出が揺らいできました。

福井駅は本文に書いたとおり、待合室で過ごした時間は長いですが写真は案外撮ってません。もう少し当時の状況がわかる写真が見つかれば良いのですが。
Commented by 風旅記 at 2018-05-19 19:07 x
こんにちは。
今日もお写真を楽しく拝見させて頂きました。
周遊券、急行列車に乗って旅した幼い頃の記憶、懐かしく感じておりました。
夜行列車で夜を明かす経験、今の若い方にはなかなか得られない経験になっていると思えば、単に時代の変化という感覚を越えて、何か大切なものを失ってしまっているようにさえ感じます。

リンクの件、ご承諾くださいましてありがとうございました。
掲載させて頂きました。
今後とも、宜しくお願い致します。

風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/
Commented by michikusajinsei at 2018-05-20 11:52
風旅記さま、コメントありがとうございます。

確かに自分の若い頃は無為の時間、自分と向き合う時間というものを否応もなく過ごしてきました。夜行列車、しかも堅い座席の普通車で過ごす時間などその最たるものです。

当節、夜行列車の消滅だけでなくスマホの普及で、そういった無為の時間を楽しむことは難しくなってきました。別して若い人にそれを経験できる機会が減ってしまったのは時代の変化とはいえ残念ですね。

リンクの件、こちらこそ嬉しく思っております。今後ともよろしくお願いします。