昭和61年 郡山駅(その5)
先日、神保町シアターで「植木等と渡辺プロダクションの映画」という特集がありました。似たような企画が20年以上前に横浜の映画館でも上映され、クレージーキャッツ全盛期の破天荒な映画はその時に楽しんでいたので、今回は最近の作品「会社物語 Memories of you」を観てきました。
最近の作品といっても昭和63年ですからもう30年前になるのですね。僕は旧作邦画を好んで観てますが、それは懐古趣味というよりはむしろ未知の世界、あるいは失われた世界への憧れや好奇心といった気持ちが強いです。その点、この映画、21歳の時に封切られた作品ですから自分自身の人生としてはリアルタイムの時代風景。その意味ではいつも見ている邦画と比べると制作年は新しくても気持ちとしてはノスタルジア、懐古気分が湧いてきましたね。
ただ同時に別の感情も湧き上がってきます。この映画の主人公は定年間際の会社員、彼の心象風景を丹念に描くのが主題。悔恨と諦念、いくばくかの充実感、そして同年代への連帯といった風景です。勤続34年で間も無く定年を迎える主人公、大学卒で56歳、今の僕と6年しか違いません。映画の世界はその退職間際の1〜2ヶ月の人間模様を描きます。「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ」そんな雰囲気が濃厚な周囲の視線。そうか自分もそういう目で見られる歳なんだな、思わずそんな言葉を映画館の中でつぶやきそうになりました
リアルタイムでこの映画を見たら、いや20年前の特集で見ても今回自分が見たような感慨はわかないでしょう。それは単に自他を問わず周囲の環境の問題だけではないです。その違い、一言で言えば時間を意識するか、そういうことではないかなって思います。
21歳の自分はもちろん将来という時間はもちろん不安でしたがそれはどこでとまるかわからない果てしなさへの不安でしたし、それはその10年後でもさして変わりません。上の写真に映る空ではないですが、ぼんやりとした曇り空がどこまでもなんとなく続いていく、そんな感覚で時間を見ていました。
それはさておき、こういう映画を見ると、一方で思うのはその頃の、今の僕と同年代の人たちはどういう世界観を当時抱いていたのだろうかということです。映画の最後の方で酔っ払った植木等が銀座を歩いていて「日本をこんなに(豊かに)したのは俺たちだ」って叫ぶカットがあります。やはりここには世代特有の息吹きというものを感じます。ある種の勝利感、陶酔感。この映画の封切りに前後しバブル景気というものが加速していきますが、このバブルという時代も世代によって感じ方はそれぞれだと思います。その中で最も無邪気にその雰囲気を謳歌したのがこの世代、国民学校世代ではないかと思います。
昭和30年前後に成人を迎え平成初頭に社会の第一線を引退していった世代。戦後社会とは一面、会社社会。会社の発展と世代の成長が軌を一にしていた、少なくともそう信じていた世代にとって、バブルの華やかさは実際に体験したかどうかは別にして、彼らの過ごした会社社会の成長物語の大団円として盛り上がったあの頃の世間の雰囲気は、彼らにとって格別心地よいものだったのではないでしょうか。
少し前ですが、僕はキハ82のことを日本株式会社の幸せな申し子と書いたことがあります。
http://anosyaryo.exblog.jp/21196856/
この文章を書いているとき、実はこの世代のことを念頭に置いていました。でも、実際の社会で特急用車輌のように一世を風靡するような存在は別格です。この世代で言えば長島や裕次郎のような大スター。彼らは社会や世代の象徴ではありますが、夢の存在であって社会を支えていたわけではありません。
一方、同じ年に同じような性格で登場した別の車輌があります。それがこのキハ58。僕の地元、神奈川には縁がありませんでしたが、非電化亜幹線の急行用として登場し電化が進んでからは普通列車に転用され全国津々浦々を走った車輌です。その意味では華やかな車歴を誇るという車輌ではありません。しかし航空路線、新幹線、高速道路と言った現在、我々が仕事に観光に普通に使っている交通機関が貧弱だった昭和3、40年代、まさに先にあげた世代が実務の最前線で活躍していた時代に彼らの移動を担ったのはこの車輌です。彼らの夜討ち朝駆けの日々を支えたのがこの車輌、この車輌が彼らを様々な土地に運び、その活動がやがて全国規模での経済成長に繋がっていった、正にキハ58の走るところに日本の経済成長の力強さが宿っていた、そういった意味では高度経済成長の裏の主役という車輌と言っても過言ではないですし、この世代を象徴する車輌なのではないでしょうか。
ちなみにこの「会社物語」クレージーキャッツが最後にメンバー全員で演奏した映画でもあるそうです。そういった意味でも昭和最晩年になんともふさわしい映画であるように思いました。
by michikusajinsei | 2017-11-26 15:47 | 東北 | Comments(2)
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シグ鉄
at 2017-11-27 11:11
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キハ58と言えば、私にとっては急行アルプス。小仏トンネルを抜ければ神奈川県ですが・・
ケツ穴の小さいコメントで失礼しました。
ケツ穴の小さいコメントで失礼しました。
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michikusajinsei at 2017-11-27 22:00
シグ鉄様、コメントありがとうございます。
そうですか。アルプスに気動車時代があったんですね。僕が乗ったのはもう40年前ですがその時はすでに165系でした。
乗りたかった特急あずさが最初から電車だったので妹分のアルプスも当然電車で運転開始だと思ってました。さすがベテランのご指摘、ありがとうございました。
確かに中央線は津久井郡を突っ切って甲斐路に入りますから神奈川にもその足跡を残していることになりますね。
そうですか。アルプスに気動車時代があったんですね。僕が乗ったのはもう40年前ですがその時はすでに165系でした。
乗りたかった特急あずさが最初から電車だったので妹分のアルプスも当然電車で運転開始だと思ってました。さすがベテランのご指摘、ありがとうございました。
確かに中央線は津久井郡を突っ切って甲斐路に入りますから神奈川にもその足跡を残していることになりますね。