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昭和62年 東海道線

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それにしても30年、文字にすると大昔という感覚がある。

もっとも実感という点では40歳以上の人間にとって30年という年月は振り返るとあっという間だが、一方、自分を取り巻く社会の変遷という意味では決して短い年月ではない。

そして、その30年という年月の重みを描いたあるドラマがある。それはさらに時代を遡ること10年、今から40年前に作られた。

以下はそのドラマの中の一節である。

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「俺は若い奴が嫌いだ。自分でもどうしようもない。若い奴が嫌いなんだ。」

「昔の話をするな、と言ったな。滅多に俺は昔の話などしない。しかし昔を忘れることはできん。戦時中の若い奴は、つまり俺たちはもっとギリギリに生きていた。死ぬことにも生きることにももっと真剣だった。」

「時代が違うんですよ」

「そうだ、昔だっていい加減な奴はいた、今だってギリギリに生きている奴はいるだろう。しかしなあ、明日死ぬと決まった特攻隊の連中を俺は忘れることできない。」

「明日、確実に死ぬと決まった人間たちと暮らしたことがあるか。それも殺されるんじゃない。自分で死ぬんだ。自分で操縦桿を握って、自分で死んでいかなければならない連中と前の晩を過ごしたことがあるか。」

「顔色がみんな少し青くてな。ある晩、吉岡、星が出ているかと聞いた奴がいた。でていなかった。見えないようだと答えると、そうか降るような星空ってのはいいもんだったたな、と言った。俺は一晩中雲よ晴れてくれと空に願った。晴れたら奴を起こして降るような星空を見せてやりたかった。翌朝、曇り空の中を奴は飛んでいった。そして帰ってこなかった。」

「甘っちょろい話じゃないかと今の奴は言う。しかしな、翌朝、確実に死ぬとわかっている人間は星が見たいという。たったそれだけの言葉に百万もの思いが込められていたんだ。」

「最後に奴と握手した時のぬくもりを俺は忘れることはできん。奴に手のひらはとうに冷たくなっている。俺だけが、俺だけが生き残ったということの情けなさがお前たちにわかるか。」

「いやわかってもらえなくてもいいんだ。それを甘いという奴をおれは許さん。少なくとも好きにはなれん。」

「いいも悪いもあの時代が俺をつくった。あんな後は、そんなもんじゃない、そんなもんじゃない。と何を見ても思ってしまう。とりわけ若い奴がチャラチャラ生き死にをもてあそぶようなことをいうと我慢ならん。利いた風なことをいうと我慢ならん。」

「俺は若い奴が嫌いなんだ。」

「それは....つきあいにくいですね。」

「ああ、多分、若い奴を本当には知らないせいだろう。」
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「男たちの旅路」

昭和51年2月、戦後30年という時代に放映されたNHKのドラマの中の一節である。

by michikusajinsei | 2017-04-05 21:47 | 国鉄 近郊型電車 | Comments(2)

Commented by 風旅記 at 2017-04-10 23:42 x
こんばんは。
30年ですか。30年。
確かにその時間の感覚が自分の中にあるかと言われれば、私の答えは否です。
しかし、自分が30年前の記憶を朧げながら持っていることも事実、想像も含めて、否定せずに理解しようと努力することが欠かせないのかもしれません。
30年とは、こうして改めて考えてみれば一つの時代が終わるほどでもあり、理解できるかどうかは自分にかかっているのかもしれません。
JRに移行して30年、それも政治主導の社会を揺るがす程の出来事でした。
民意から乖離してしまった国鉄、一般には理解できない労働運動、その全てが解決するかのように出発したJRだったのではないでしょうか。
30年が経ち、国有資産を受け継いで安泰のはずのJRも、会社によっては既に経営面で永続性が問われる事態に陥っています。
30年前のさらに10年前には、戦争の影がまだ色濃く残っていた、そこには、戦後の勢いも含めてその時代の光と影があったことと思います。
こちらの記事を拝読し、私にとって気付きがありました。
今から30年後、私はまだ生きていたいですし、その時にその時を生きる人と何を話すのか、自分で考えてみたいと思います。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/
Commented by michikusajinsei at 2017-04-12 22:48
風旅記さま、コメントありがとうございます。

ある年月を切り出しても重なっている部分があるので、相当恣意的な見方になりますが、このドラマが企画された昭和50年にとっての30年は戦後を風化させる年月、それから10年後、僕が学生時代だった頃の30年間は高度経済成長という時代を演出した30年という時間の流れだったと思います。そして今から振り返るこの30年はグローバリズムというものに翻弄された年月だったように思います。

ただ、前二者はともかく、最近30年間の位置付けはこれは自分自身の世代が過ごした青年・壮年という時間の中で感じたこと、そして僕もまた自分の世代の枠から逃れられないので、他の年代の人は違った見方になるかもしれませんね。

国鉄解体の頃、自分が感じていた雰囲気はいつか書くかもしれません。